読んだ本 2019年上半期
6月も終わりにつき。
私たちが孤児だったころ(カズオ・イシグロ)
- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,入江真佐子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/03/01
- メディア: 文庫
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フィクション/20世紀上海
“探偵”な主人公による冒険活劇、にしては苦すぎる。
主人公は常に子供っぽい記憶と行動に逃げ込んでいて、早いうちに読み手にそれがわかってしまう。そして最終的には“探偵”なためにすべてが明らかにされてしまう。
大人の嘘を信じ続けた子どもの話であり、知ってしまったら孤児ではなくなるのか。
フィクション/前中世イギリス
アーサー王亡き後のイギリスで、ブリトン人とサクソン人がそれぞれ村をつくり暮らす中、ぼんやりとした不安がつつむ中を、心身ともになかなかおぼつかない老夫婦の旅路という、直前に読んだ「探偵」より不安になるが、当たり前のように悪鬼やら竜やらがあらわれてもしっかりしていた。登場人物がみんな魅力的なイシグロ作品もあるとは!(失礼)
どこ転がっていくの林檎ちゃん(レオ・ペルッツ)
フィクション/戦間期ヨーロッパ
アップルヘェン(リンゴちゃん)っていうのがかわいい。 そして本当によく転がっていくのは主人公。むしろおまえ転がりたいのではと。
義侠心というよりは自分自身の誇りをエンジンとして、ロシアトルコパリウィーンと駆け巡る(というより転がっていく)けれど、その間に状況が激変していくのに度胆を抜かれる。ユダヤ系オーストリア人ということもあって、WW2を経て忘れられた作家になってしまったというが、おそらくこの話にあるような「汎ヨーロッパ」的なイメージがWW2後には成立できなかったんじゃないかなとも。
彼女がエスパーだったころ(宮内悠介)
フィクション/現代
偽科学(といわれてしまう、とすると配慮が効いているのだろうか)、嘘くさいものをテーマにした連作短編。
まずはじめが、ニホンザルの話である。ルポルタージュ風に始まり、火を使うサルが現れ、問題なのは人家の台所に入り込んで火をつけるため、失火になる。しかもそれが各地にひろがっているという。調べてみると始めたのは他と接触がないはずの離島のサルで…といった具合に、ルポライターの書き手が「101匹目のサル」「スプーン曲げ」「ロボトミー」「水に声をかけて浄化」「レメディ」「ティッピングポイント」あたりの事象が押し寄せてくる。文章に引き込まれるけれど、疲れる感じではある。
フィクション/現代日本
学生時代を京都近辺で送った人にとって、森見モノは心身に悪い。
何かのきっかけで「狸」を目にした後、いつの間にか手に取ってしまい、続きを買い、続刊を望んで鴨川に身を沈めることになる。
四季で一巡する構成とか、納涼船だったり、料亭での大乱闘だったり、ふわふわの毛並だったりのイメージが魅力的なんだけど、何よりも食われるかもという恐怖もあるのがいいとおもいました。(阿呆な感想)
聖なる怠け者の冒険(森見登美彦)
フィクション/現代日本
祇園祭の1日で起こった出来事なので、これは古典演出ですわ。
主人公が積極的に睡眠・怠惰へ逃避するのがいいですね、ぼくも畳で寝たいしパラソルの下でも寝たいし座布団にはさまれて寝たい。
言鯨16号(九岡望)
フィクション/別世界
書評紹介を見て購入。良い。
砂漠(とごく少数の生物)しかいない世界で、砂の上を移動する船を駆って街々移動し、砂上に残された巨大な骨を鉱山としてエネルギーとする文明があって…と、よくできた世界観だけで2杯ぐらい空けられる。キャラクターの魅力でもう1杯。
ヨハネスブルグの天使たち (宮内悠介)
フィクション/近未来
歌って踊れる少女人形が落ちてきたり、殺人兵器になってる短編集です!っていうとろくでもなさそうだけど、だいたいそんな感じ。めぐる各地の紛争風景。
虐殺機関とかハーモニーをなんとなく類推してしまうけれども、もうちょっと実感がある。読み終わった後に高島平の団地の近くを通って気になってしまうほど、登場人物が近い感じがあった。
戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」斉藤 光政 (著)
ノンフィクション/20世紀日本(青森)
民家の屋根裏から見つかった古文書には、正史から抹消された古代に津軽で栄華を極めた幻の政権の記録が!次々に発見される文書とそれを裏付けるような遺跡の発見に、町おこしやら博物館やらは騒然!でも、少しづつ怪しくなっていって…という経過を、批判的な報道を開始した地方新聞記者がつづる。
書き方がちょっと勇み足な感じで鼻につくけれど、東北民なので興味深く読んだ。うむ。たしかにこういう伝説は好まれるし、うっかり地域ガイド的なもので触れられててもへえぇぐらい、ただ実際として描かれる全体像はあり得ないもので、発見の経緯やら検証やら含めて「怪しい」。専門家にとってしてはとるに足らないもの、一般からすると「ちょっと面白い」の間で咲いた徒花といった感じではあるけれど、実際に被害(偽物を本尊として渡された自治体とあ)があり、さらには政治家もでてきて笑えない。
時の娘 ジョセフィン・テイ
フィクション/20世紀イギリス
シェイクスピア劇でも有名なリチャード3世は本当に悪人か?を怪我で入院中のロンドン警視庁の警部が文献から探る。
歴史探偵もの、久しぶりに読んだけど好物でした。同時代人による伝記、手紙、文書といった文献をたどって検証するが、歴史探偵もののありがちな罠として、作者に騙されている可能性もあるのでそこも注意せねばとおもいつつ検証はできないぼんくら。
これを読んで、薔薇王の葬列買いました!(なんでや)
こちらは、シェイクスピアをもとにしつつ、踏まえてアレンジしているので良いと思います(小学生並みの感想)
子どもたちは森に消えた
ノンフィクション/20世紀 ソビエト連邦
10代の子供(および若い女性)をねらった連続殺人、その数およそ50人。連続事件と発覚されはじめたのが1982年だが犯人が逮捕される1990年まで犠牲者が増え続けた。その捜査担当官の苦闘をノンフィクション。筆者はソビエト駐在のアメリカ人記者。
とにかく無造作に犠牲者が出るが、どうしても進まない捜査が印象的。そもそもソビエト連邦では享楽殺人が資本主義社会特有のものとして認識されておらず、捜査機関の質も悪い(エンジニアからいきなり配置転換されたりする)。さらには効率も悪いし、上司からは圧力というレッドならぬブラックぶり。なくなってしまった国の過去のお話といえど胃が痛い。
ヒト夜の永い夢
フィクション/昭和日本
書評で購入。 改元記念にちょうどよかった。
大正から昭和へ時代が移った時、学会を追われた学者やら怪しい人士によって運営される秘密団体昭和考幽学会が、改元記念のために作った思考する自動人形は見た目にも魅力的で語る言葉も麗しく過去未来を予言し…。
つぎつぎ登場する大正~昭和初期の有名人が、どいつもこいつも自分のことしか考えてねぇ!といった感じで楽しい。伝奇ですな伝奇。
下半期はちょっとノンフィクションを増やしたい。