2020年上半期に読んだ本など
2020年も前半終わろうとしてんじゃねーか
書籍・小説・漫画・WEB小説
犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎(コニー・ウィリス)
SFミステリードタバタラブコメユーモア小説!
犬も猫もおるしパワハラも執事も婚約もタイムトラブルも歴史談義もあり。大変楽しい。タイムトラベルが可能になり歴史研究が行われるようになった大学の歴史学部だが、スポンサーの無理難題解決のために大混乱に。過労で倒れた学生の主人公が療養として派遣されたのは優雅なヴィクトリア朝時代。なはずなのにトラブル続き。まず、主人公氏が過労すぎて何も話聞いていない。そのうえ、周りも話聞いていない。ドタバタ。でもどんどん収束していってきれいに収まってよかったよかった。
1/5に読了。余談だが、仲間内でのお題にあわせて作品や人物を答えるあそびで、ヒロインのヴェリティを「ギャップがある人物」に挙げていた。
所有せざる人々(アーシュラ・K・ル・グィン)
共産主義的な無政府主義者の惑星と資本主義的な権威主義者の惑星、どちらもそこそこ快適そうでそこそこに耐えられない
2重惑星に住む、祖先を同じくする人々。片方は貧しく、無政府主義を掲げて資産や仕事を共有している。子どもの名前も家も仕事も家族も、独占することができない。そこに生まれた物理学者の主人公は、業績を立てても名声や研究職の地位を得られない。故郷であるのになじめない。そこで、反発にもかかわらず招かれて300年前に分かれたもう一つの惑星の学会に招かれるが、そこは享楽的で権威主義的でやはり好意を持つことはできない。最終的に主人公は自分だけのものであった物理理論を手放すことで、何も独占しないものとして家族のもとへ戻る。
この、どこにも居所がないというのがギュッときた。アナーキズムをユートピアとしてではなくどこか個人の居所を奪うものと描き、個人の中に安寧を見出す(見出さざるえない)ものとするのが興味深かった。1/9ごろに読了。
闇の左手(アーシュラ・K・ル・グィン)
性がない人々が住む世界の観察と記録
ハイニッシュユニバース、というらしい。作者のル・グィンの作品シリーズの中でも、過去に様々な環境の惑星に進出したハイン人の植民地が、その後長い分裂の時代で独自の進化を遂げた結果、社会や生態すら変化させてしまった。その後、再統合の動きの中で使節が派遣される、連盟への加盟を促すなかで様々な人類の形態を目にする、というのがその組み立てになっているが、その一つ。1か月のある時期のみ男女どちらかに変化し、それ以外の時期は両性(というより無性)で生きる人々の住む世界は極寒の惑星。
妥協を知らない人物というとこの氷の世界の住である登場人物のエストラーベンであるが、それに対する連盟からの使節もまた任務へのこだわりが強い。両者の互いの視点が切り替わって語られつつ、異人への理解と協力が描かれる。平等であり異邦人であり孤独である。
世界の誕生日(アーシュラ・K・ル・グィン)
短編集 惑星で移民船で生まれる独自の世界 宇宙文化人類学
ル・グィンリレーラスト。上述のハイニッシュ・ユニバースに基づいて、過去に放棄された人類の植民地で独自の進化を遂げた社会を描く短編がいくつかと、世代交代しながら進む移民宇宙船の中の世界を描く中編。
もし社会がこうであったら?みたいな見本市。特に性差と社会規範についてが多い。男女の立場が入れ替わった極端な女尊男卑社会を描いた短編も強烈ながら、5世代を後退しないとたどり着かない惑星へ向かい続ける話も強烈だった。1月後半に読了。
マーダーボット・ダイアリー(マーサ・ウェルズ)
連続ドラマオタク殺人兵器の自己語り
宇宙に進出した人類。企業体が軍事力や警察力を駆使する世界で、クローン製の人間の脳と機械化され(武装した)体をもち、通信チャットで会話したりハッキングしたりしつつ、コンテンツに耽溺する殺人機械(マーダーボット)による、慇懃な日記。
これは面白かった。1月末読了。保険会社に所属し、顧客の警護が仕事ながら、命令実行のための統制モジュールをハッキングしてしまっているため、実際には自由な状態の構成機械(有機体と機械からなる存在)が主人公。命令を聞かなくてもよい状態のため、顧客を皆殺しにしても立ち去ってしまってもよいが、今熱中しているのは動画コンテンツの閲覧という主人公(一人称が弊機)のキャラも面白いが、他の非人間たちも面白い。圧倒的な計算力持っているのに一緒にドラマ見てくれるし、厳しい展開で動揺してしまうARTはいいやつ。中編4編の上下巻だが、一応まとまっていて読みやすい。テーマ的にも、人間に近い非人間(主人公のようなサイボーグ的な構成機械や船やポートのAI)が人間をどのような存在とみなしているのか、彼らは自由になった時になにをしたいのかという議論は面白かった。対人恐怖症気味で引きこもりムーブをかましながら、「自分が自分であり続けること」にこだわる主人公愛しい。
続編が出たらしいが、翻訳はまだまだ先だろうか。原書を手に入れられるかな。
鋼鉄都市(アイザック・アシモフ)
ロボットバディ、刑事もの、古典
…正直今一つ。そんなに歴史が進んでいるのにいまさらキリスト教ですかぁ?という感じもなくはなかったが、現状アメリカみてるとそうでもないのかな…?2月初頭読了。
量子魔術師(デレク・クンスケン)
遺伝子操作人類亜種、チーム、多国籍感
詐欺師がチームを組んで、騙しをしたうえでさらにもらう代金以上のものを手にする話。ではあるのだが、SFなので騙しのツールはワームホールと宇宙艦隊で、騙す相手は宇宙空間に進出した巨大国家。キャラクターもなかなかねじが飛んでいてよい。
興味深いと思った点は2点ほど。1点目は宇宙に進出した人類だが、環境や経済上・政治上の必要によってさまざまな遺伝子操作を施し、一種の亜種になった人類がチームを組んでいる。遺伝子操作は素晴らしい能力をもたらすとともに、その生き方を規定している。主人公は天体観測や確率計算用に作られた人種で、過集中状態に入ることで飛躍的な計算力を持つが、一方でその遺伝子操作によって仕組まれた性質を嫌悪している。同族の幼馴染への愛情が仕組まれたものに感じて反発する一方で、未知への憧憬を止められない。2点目は、描き方。ラテン系の名前やフランス語の罵り語がでてきて多国籍感があるなと思ったら、作家がカナダ出身でメキシコで勤務していたことがあるとのこと。なるほど。2月前半に読了。
グラン・ヴァカンス 廃園の天使
客を待ち続けるリゾートの住人、絢爛豪華なグロテスク
地中海風の海沿いの街を再現した、仮想現実のリゾートと客をもてなすために用意されたAI達。 永遠に続くと見えた繰り返される1日が崩壊し始める。
永い永い間、人が訪れなくなった仮想現実のリゾートという設定がぐっと来た。季節は夏で雰囲気はノスタルジックに固定され、かつその住人達はそれぞれ背景となるストーリーを設定として持っている。しかし訪問者がない状況では、読まれないままの本のように誰にも触れることがない。この雰囲気もよかったけど、そのあとに始まる崩壊とそれに従って明かされるリゾートのグロテスクな側面には嫌悪しつつ読み進める手が止めにくい。2月前半に読了。
7月の今、続編というか前日譚の「ラギット・ガール」を読んでいる
折りたたみ北京 現代中国アンソロジー(ケン・リュウ編)
伝奇から現代、期待しているものと期待していなかったものと両方
アンソロジーなので、なのかカタログ見本みたいにいろいろ。好みのものもあれば、どこかで見たなみたいな印象のものも。読んでいて気になったのが、自分がなにかオリエンタルなものを見たいと期待しているんだと気づいてしまった。
2月中旬に読んだ。三体が話題になっていたころか?
ナイトフライヤー(ジョージ・R・R・マーティン)
だから初対面メンバーが乗り合わせる探査チーム船には載っちゃダメって言っているだろうが
中編+短編いくつか。いかにもなSFものからちょっと変わったものまで。表題作より面白いかなと思ったのは、ゾンビというか死体を操る技術者の話。運用大変そうだな。ところで「winds of winter」はまだですか?(キレ)
3月頭に読了。このころはまだそこまでウイルス対策も話題というぐらいで、フェアコーナーで「ペスト」と「デカメロン」が並んでいるのを横目に見た記憶。
反逆航路シリーズ(アン・レッキー)
同期された4000人のわたし、性がない言語、タイトル詐欺
数千人の兵士を操作する戦艦のAIだった私は、艦と乗員を失ってたった一人として取り残され、復讐の旅に出ている。その途中で過去の乗員を発見して…。
結構好きなシリーズなんだが、邦題と表紙が誤解を生むよなという気持ち。署名で検索すると「つまらない」がサジェストされるのかなし。独特な文化世界を魅せてくれている。手袋とお茶の尊重、何千人も同時に存在するたった一人の最高権力者、なによりも主人公および主要舞台の言語には「性」がないので、翻訳上男でも女でも「彼女」になるしだれかの子どもはすべて「娘」といった風に女性形に統一されているのが小説として面白い。派手な戦争がないのが不満みたいにみられている?みたいだけど、自我の分裂したシーンとか、なぜか離れがたいみたいなのグッと来たんですけどね。
続いて同じ宇宙ではあるが部隊が異なる「動乱星系」も読んだが、反逆航路としての続きは出ないのかな。
3月前半に読み終わった。2月に1巻目だけ購入して、その後学校の一斉休校などがはじまり、書店も閉まるかもと思いながら続きを買いに行った記憶。(購入履歴を見ると3/10。この時に「荒潮」も購入している)
荒潮(陳楸帆)
目玉、ゴミの山と海流、ボーイミーツガール??
「荒潮」で検索すると、駆逐艦が出てくるがまさかの関連していた。
読みたいものを読ませてもらったという感じ。資源ゴミが集まる島、帰郷した現代人と因習を感じさせる一族、電子の世界を操る存在。ただ、既視感があるというか、結局一番印象に残ったのが目玉の話と潮占いだった。生身の身体に手を加えるのをためらう一方で、古くからの風習には嫌悪感を抱く。等価ではないが、小さいこだわりと偏見でできていて、その中でちょっとでもまともでいようとするしかない、みたいな?(曖昧)
3月中旬読了。
我らはレギオンシリーズ(デニス・E・テイラー)
ボブが、ふえる・・・!テラフォーミング、自己複製機械、惑星探査、ファーストコンタクト、そして宇宙戦争…全部乗せ!
プログラマーでSFオタクの主人公(ボブ)が事故死し、数百年後に電子化された人格として復活したが、いきなり探査船に積み込まれて宇宙へ旅立つことに。広大な宇宙を一人では探査できないので、AI人格と探査船のコピーを作りながら宇宙へ広がるボブ…。
人格をコピーするたびに、微妙に性格に差ができていき、次第に人類とも離れた独自の秩序を築くのが興味深い。時間の単位も人間とは違うしな。それでいてオリジナルがオタクだからか、様々なネタをそれぞれの名前とテーマにしているので楽しい。ボビヴァースってなんだよ。探査船として出発したが、直後に世界戦争になって太陽系は滅亡寸前になってしまって、保護者としてふるまったり敵対的な宇宙生命と戦争したりとなんでもあり。いつまでもまとまった一群として行動する必要はないにたどり着いた最後はよかった。推しボブはビルです。
4月前半に読み終わった。1巻だけ3月末に購入、書店も閉まるかもという4月第1週に2・3巻を慌てて購入した。リモートワークが始まるかも?みたいなころ。
リウーを待ちながら(朱戸アオ)
WEBで一部無料公開を見て、そのまま購入。履歴を見ると3/29。
パンデミックやばいというのがよくわかる内容だった。ただ、いろいろ手配する味方がかなり有能で、実際の経過とみると「そううまくいかないんだな」というのも見えてしまった。
人間たちの話(柞刈湯葉)
気軽に読める短編集。こういうのがいいのだこういうのが。
前向きな氷河期、エンタメ化した監視社会、生命探査と家族、そしてラーメン。肩痛くならない感じ。ラーメン食べたい。
いよいよ緊急事態宣言(仮)によって、リモートワーク化。1日引きこもりに堪えかねて、夕方に近所の公園に行ってベンチで読んでいた。日が落ちると陸上に上がってきた鴨に威嚇された。なんでや。
この後、4月は下記の記事に従って小説家になろうを読み漁っていた記憶
https://note.com/kimehito/n/n3e04198ddfd4
長編で時間が溶けた。ホノルル幕府面白かったです(小声)
天冥の標シリーズ(小川一水)
トッピング全部のせ。電子書籍合本版7263ページ全10巻、17冊。死ぬかと思った。
読み終わった時の感想が残っていたので自己流用
伝染病と知的なウイルスと進化と宇宙戦争と直球のエロが、21世紀から29世紀まで濃ゆいキャラクター群と一緒に駆け抜けてったわ。
第1巻で惑星移住植民地革命闘争がいきなりどんでん返しで終わったら、2巻はいきなり恐怖の伝染病と差別、その後は男の娘が宇宙海賊を倒すスペースオペラやったり目くるめくエロシーン、そしてすべての背後で手を回して文明でを守ってくれる知的存在体(ただし羊に宿る)。広げすぎて意味が分からんと思いきや、テーマは「他者との共存」で貫かれている。なるほど。しかし異星人の前で公開性交は何とかならんかったのか…?そんな外交あります?
各話100年とか300年後とか時が飛ぶのに、前巻登場人物の末裔らしき人物や組織が何度も登場するところも魅力です!面白かった!
疲れた…もうだめだ…脳死ぬ。だがこのテンションを残したかった。
植民地惑星で革命闘争している→実はその裏で異種族レベルまで身体作りかえた元人類と戦っている→そもそも別の種族同士が戦争直前→全銀河一致して立ちむかわないとやばい敵がいる
というのを把握しているのは羊に宿った文明寄生型知的生命体(めぇめぇ
自分で読んでも意味が分からないけど読んでいて楽しかったです。人に勧めたいのだが巻数が多くて勧められないし、おすすめポイントはというと早口になってしまう。300円払うから聴いてほしい。
5/14に購入して5/18に読み終わっている。が、そのあと2週した。
混沌ホテル(コニー・ウィリス)
ユーモアと皮肉に満ちた短編集。楽しい。
やや時代を感じるものの、明るく楽しいドタバタ短編集。クリスマスソングにのみ反応する宇宙人、インチキチャネラーに憑依した伝説的懐疑論者の人格、そして盛大な「宇宙戦争」ギャグ。リモートワーク中、夕方から夜にベランダで読むのにはまっていたころにピッタリだった。
6月前半読了。非常事態宣言さんがログアウトしました。
ツインスター・サイクロン・ランナウェイ(小川一水)
電子で購入。普通と普通でないと。
資源として、鉱物でできた「魚」を取って輸出する植民惑星で、氏族で別れてそれぞれが漁をしつつ通婚することでバランスを保つ社会。漁にでるにも男女の夫婦でおこなわないと認められないところを、はみ出し者な主人公たちは女同士で組んで挑む。
普通はこうと定める理由もわかるけれど、それ以外を認めさせるのには大変な苦労。普通につぶされそうではあるが、救いもありというさわやか読後。
上半期はいろいろとおかしな状況だったし(どこも息苦しく、まさしく I can't Breath)だったのか、余計に架空の世界なSFに耽溺していた。7月からは何を読むべきか。