読んだ本&映画など2019 後半
2019年も終わりにつき
■小説
戦場のコックたち 深緑野分 【第二次世界大戦中/ヨーロッパ】
第二次世界大戦中のヨーロッパ戦線におけるアメリカ軍空挺部隊の「コック」になった主人公とその仲間による、戦場で発生した「日常」の謎解き。
キャラクターがなかなか魅力的。料理好きで兵士内では馬鹿にされるコックに誇りを持っている主人公、謎解きの中心人物で頭脳明晰だが味音痴の探偵を中心に、意地悪なやつ、親切なやつ、よくわからないやつが現れ、初対面から少しずつ人物の背景を知っていくのも面白い。謎解きは、「保管していた粉末卵の山が一晩で行方不明になった」「ある兵士が使い終わったパラシュートを集めているのはなんのため?」など、戦場の攻防にかかわらない内容が多い。では何のためにやっているかといえば、「気晴らし」のため。後方支援担当のコックといえど、通常時は歩哨などにたっているし、前線として突撃はしないがやはり戦場のストレスがあり、そこから目をそらすためでもある。が、謎解きによって人を傷つけてしまったり、罰せられてしまうことを目にしていくことにもなる。ノルマンディー降下作戦から、オランダの市街戦(マーケットガーデン作戦?)、ドイツ国内へと進んでいくが、後半にかけて、調理・謎解き・戦場の3要素で進んでいたストーリーは、戦場およびその悲惨さが覆いつくしていく。後半は苦みが多くやや冗長な気がしないでもないが、ラストは良い。
オーブランの少女 深緑野分 【短編集】
<少女>がテーマの短編集、なのかな?舞台も様々。20世紀のヨーロッパの庭園、20世紀初頭のイギリスの雑多な都会、ヨーロッパのどこかの街の定食屋、戦前の日本の女学校、架空の中世の雪に閉ざされた北の国。美しい庭園の管理者姉妹の姉が突然現れた狂人のような人物に刺殺されてしまい、妹も直後に自殺。しかし、狂人はどうやら姉妹に庭で飼われていたようでと始まる表題作を含めて、謎があるが解き明かすことで味わうのは苦みというのが特徴。謎解きは調味料。
氷と炎の歌シリーズ ジョージ.R.R.マーティン 【異世界中世ファンタジー】
続刊はよ!
2019年に完結したHBOのドラマ「ゲームオブスローンズ」の原作のファンタジー戦記。京極夏彦なみの文庫本サイズで12冊、しかも後半ほど厚くなってんじゃねーか、ふざけんな、好き!なんと、8年もかけてドラマが完結しているのに原作が完結していない。それどころかちょいちょいエロとかギャグとか皮剥ぎとかで時間稼ぎしていたのにも関わらず、当初の執筆・出版予定からの大幅な遅れのため、ドラマ製作途中で原作に追いついてしまった。そんなのってアリ?原作者、ドラマ最終章に不満を述べるくらいなら続きかけやコラ…。しかも小説版だと主要人物だけで3倍ぐらいになっていないか、終わるのかこれ…。
とはいえ非常に魅力的な作品。ファンタジー小説となっているのだが、魔法の要素は限られており、ほぼガチ中世。もともと歴史小説を書きたいが展開がわかってしまうので、薔薇戦争を舞台を全く別にして描いたらどうなるかとのこと。また、地域ごとの習俗・宗教の差もしっかり描かれていてよい。ただ、何より魅力的なのは章ごとに視点人物を切り替えながら動く構成。数人の視点となる人物の主観で、玉座をめぐる陰謀や戦いの様子が描かれるが、ある章で見えたものと別の章では見えているものが異なるし、ある章の視点人物に後に何が起きていたのか伝聞で語られたりする。作中人物同士では初対面でも、読み手はこいつが何やってきたのかしっているし、何を考えているのかどこが嘘かわかる。そんな中で展開される、お家騒動から発した家ごとの抗争および家族内での愛憎がツボでした。家ごとにカラーが異なっているのがいいな。特に、第5部「竜との舞踏」は、ダンスというワードが「陰謀の」「権力誇示の」「戦いの」「滑稽試合の」「結婚式の」と視点人物で異なる形で現れるあたりすごいすき。歴史もの×群像劇×1人称視点複数で好みを次々ついてくる。
とはいえ、2011年を最後にシリーズ続刊が出ていない。はよ!
カラマーゾフの兄弟 (ドストエフスキー) 【18世紀ロシア】
カラマーゾフである。古典である。よくわからないおしゃべりが延々と続き、この父親ほんとむっかつくわぁ、と思っていたらお前もおしゃべりやな長兄、次兄、ってみんなしゃべる、からの怒涛の展開。
西洋政治思想史講義―精神史的考察(小野紀明)
まだ理解しきれていないので再読
■漫画
消費税増税後、電子書籍のクーポンキャンペーンが増え、つい購入が増える。
BEASTARS (板垣巴留/週刊少年チャンピオン/連載中)
今年読み始めた中でベストシリーズ。動物が擬人化して社会生活を営んでいる中で、本能から生じる矛盾をどうにか配慮や尊重や欺瞞で抑え込んでいる社会の生きづらさを描く。主人公の狼がメインではあるけれど、群像劇的に描かれるそれぞれの生きにくさと、種族の特性に基づいた描写が丁寧。アクションがめだつけど、アクションだけじゃなくて背景部分がいいんですよ。なお、重要なことが1つ、これは電子書籍ではなく紙媒体で買った方がいい。見開きページの魅力を楽しめない。
メイドインアビス (つくし あきひと/WEBコミックガンマ/連載中)
絵がかわいいのにえぐっ!キャラクター造形がかわいいによっているのに、展開とかやることがえげつない。地下に潜っていくという情景はファンタジーぽくて魅力的。食事はもうちょっと何とかしたい、というかそんな装備で大丈夫か心配になる。たすけておとなのひとーって、おとなやばい。
■映画/映像作品
・女王陛下のお気に入り(2018年アメリカ)
観たのは前半。没落貴族女子が成り上がりのために、無気力女王様と傍若無人幼馴染との同性愛に割り込んで、クズしかいない宮廷で寵愛ゲットをめざす(雑)。時代劇といえば時代劇なのだが、とにかく衣装がカッコいい。見終わった後に微妙な空気になる。レディ・サラは良い女でした。
・VICE(2018年アメリカ)
観たのは前半。 ジョージブッシュ政権時のチェイニー副大統領の伝記映画。黒い笑いというか、笑えない感じ。家庭ではよい夫で父なのに、権力奪取と振るうときには真っ黒。
・JOKER(2019年アメリカ)
結局2回見に行った。感想というか注目ポイントがレビュアーによって違っていて、どうにかしてみる側に引っかかるように鉤を備えている。アメコミ映画期待していった方は残念でしたかも。圧巻だったのは地下鉄から逃げた後のダンスシーン。あのシーンと階段下りはまた見たい。
・プロメア(2019年日本)
プロメアだっけ、プロメテアだっけとなるが、プロメアです。熱かったし見ていて楽しいけど、なんか設定が引っ掛かった。まあ、ほぼ歌舞伎だったので体感せよ感。
・ワンスアポンアタイムインハリウッド(2019年アメリカ)
ハリウッド版この世界の片隅に(大嘘)1969年におきた「シャロン・テート殺害事件」を下敷きに、架空の落ち目の西部劇俳優とその付き人兼スタントマンを通じて当時の映画界を描いている、らしいが当時の映画に残念ながら詳しくないのでそこの魅力はわかりかねる。が、1日1日とXデーに近づいていく中での緊張と、意外な結末にハッピーになった。俳優もカッコいいし子役の子(ジュリア・バターズ)いい。
Game Of Thrones (2011~2019アメリカ)
ゲースロである。ヴァラーモルグリスである。これまで全然見ていなかったのにはまってからの一気見した。いろいろ最高だと思っているのに、知名度が低くて知っている人にリアル接触できない。良さの詳細は別途記事にしたいし、上記原作の部分と重複するがかいつまむと、
- 大規模な群像劇による王座をめぐる動乱劇。いろんな視点に枝分かれしつつ徐々にストーリーが収束していく。
- 背景の文化・習俗がきっちり描かれている。地域によって考え方が違うし、宗教も異なる。またその地域を支配する貴族の家も特徴がある。
- キャラクターの魅力。登場人物が多いが、血縁関係や主従関係があり、動乱が激しくなってくると家族の仇が当然出てくるし、当初から人物像も変化していく。
今年の後半は完全に引きずられた。あわてて原作に手を出したら完結いないと知って泣いた。
雑感
2019年後半から、私的な研究会に属したこともあり読み直しが多くなり、漫画やアニメの視聴・履修が増え、偏りが出てきた。
来年は気を取り直してバランスを保っていきたい。