鶏手羽
鶏の骨をかみながら肉を探していたら、「よくたべるねぇ」といわれた。その時から元気に骨を砕いて食べるのが好きなのだ。
発言した人は、いわゆる叔母であり、父の妹で…出て行った父に代わり親戚づきあいと家業を継いだ人なのだ。作法には厳しかった。
父は、骨が付いた肉を愛好したが、兄弟では自分にしかその趣味は引き継がれなかったらしく。一人豚骨をかじったり、鶏手羽をかじって満たされないものを持っている。
たまに、やれ婚活やらのことを考える。
タイムマシンで戻しても婚活とやらに向かなそうな父親をみて憂鬱になる。
鶏手羽の骨の中にある髄を食べたい。かじったり、折ったりしながら食べたい。目の前で骨の髄をすする人間を、近しい同居人として許すひとがいるのか?
とあれ手羽先は使いにくい。大体でかさにひく。
簡単なのはすべて冷凍状態であること。冷凍庫の余裕と見比べて購入。
あとは、「どうにかしてこの厄介な質量を減らそう」という思いを新たに、毎朝冷凍庫をあけては、適当に肉をかたまりで出せばよい。
「明日の夜に19時に帰れるときまってないじゃん!!」
せやね。
気にすることはない、漬け込め。
そばつゆでも適当に入れた醤油とみりんと料理酒でも、白ワインでもいい。
漬け込んで、「味をしみこませているのだ!」と開き直ったならば、再度冷凍庫管理に悩んでも、お気に入りのドラマのエピソードを再生してもいい(*連続ドラマについての既視聴エピソード鑑賞の効能についてはマーダーボットダイアリーを参照のこと)
漬け込んだ後はフライパンに油を熱して、適度に焼くとよい。美味しい。漬け込むのは2日としても、解凍と並行して漬けても問題はない。漬けて、火を通す。
火が通ったら、おのれの歯で噛み砕け。肉をそぎ取ろう。
まぁ、鶏手羽肉の冷凍、おススメです!
読んだ本 2020下半期
書き出していこう
書籍
ラギット・ガール 廃園の天使2/飛 浩隆
廃棄された仮想空間のリゾート施設に訪れた危機に対してAIたちの攻防をグロテスクに描いた「グラン・ヴァカンス」の続編(廃園の天使Ⅱってあるし…)、と見せて前日譚を描いた短編5編を収録。仮想空間のリゾートを支える技術や放棄にいたる経緯など、知りたかった部分を補完している。興味をそそられたのは、仮想空間のリゾートを生身の人間に”体験”させるための情報的似姿という説明。同じ反応を示すように計算された自分の代用品を送り込み、その記憶を摂取する。すごい、ゲーム的というか。セーブデータを取り込んで、自分が体験したかのように”思い出す”。1編1編でまとまっているし、「グラン・ヴァカンス」を読んでいなくても楽しめる内容になっている。
繰り返し言及されるイメージとして、”読まれていない本”というのが気になっている。z前作の「グラン・ヴァカンス」が住人が多彩に関連していた愛憎の物語を背景に持っていて訪問者によって読まれる/消費されることを期待されたリゾートを舞台にしつつ、訪問者がいなくなってその物語群は永遠に夏の1日で固定されている。読まれなくなった物語=再生が途中で止まったままになっている物語の寂寥があった。一方で、たとえば登場人物がひどい目にあう物語を繰り返し読むという愉しみ、物語を消費する愉しみのほの暗さを気づかせるイメージだった。
自生の夢/飛 浩隆
どちらかというと幻想小説?読まれるまで固定された物語という、閉じた本のイメージが廃園の天使シリーズと連続されている、のかな?
七王国の騎士/G.R.R.マーティン
氷の炎の歌シリーズの外伝。本編の続編じゃねぇのかよクソが、と思いながら買って積んでいたのだけれど、読んでみたら…よかったです。
中編3編を収録。ゲースロを見てもらった知人に「絶対に転生したくない異世界No1」と言われてしまったウェスタロス大陸が舞台ですが、氷と炎の歌本編の90年ほど前でまだ王朝が交代前で安定している?とおもったが相変わらず治安が悪い。理由としては数年前に内乱で国が割れたことにあり、やはり戦争は人心を荒れさせるのだ…。本編では衰退寸前になっている弱いものを守る騎士道とはを、主人公の賢くも生まれもよくないが素直なダックが体現しているのがよく、またそれにこたえてくれる人々もいるのが良い。賢くて生意気なエッグくんとのコンビも大変良き。また、本編のなかで挿話的に話されていた話題の背景が知れたことがよかった。んんん!このブリンデンさんがあのブリンデンになるんかい!ところで、こちらの外伝シリーズも続刊予定が立っていない。え…?
うつ病九段/先崎学
将棋棋士の筆者自身がうつ病を発症し、入院し、復帰するまでの状況が赤裸々に描かれている。面白いのは、筆者自身が結構こどもっぽいというか、活躍しているほかの棋士のことをうらやましがったり、イベントなどでの扱いにすねたり、家族に八つ当たりしたり、そういったちょっとどうかと思うことをしてはそのことを書いている。とりつくろっていないのが面白い。書いてしまっているあたり、病気がとかではなくて、なんか正直なタイプなのかもしれない。もともと、3月のライオンの監修ページで名前を知っていて(そして途中で監修ページが登場しなくなってさみしくなっていたので)、落ち込んででも回復していく様子は読みごたえがあった。特に、詰め将棋の途中で示されていたうつ病の回復法、とにかく外で散歩しろというのは、今年のリモートワーク中に感じていた息苦しさから逃れるために夕方うろついていた身からすると実感がわく。
ちなみに、NHKでドラマ化されていました。こちらは家族目線も入ってバランスが良かった。演技よかったです…。
安田顕 主演ドラマ『うつ病九段』12月20日よる9時 放送決定! | お知らせ | NHKドラマ
荒野へ/ジョン・クラカワー
1992年の8月、アラスカ山中の捨てられたバスの中で、腐乱死体が見つかった。それは、東海岸の裕福な家庭で育ち、2年前に大学を優秀な成績で卒業したのち、財産も名前も捨てて放浪していた青年だった。なぜ、彼は荒野へ(in to the wild)向かったのか。から始まる、ノンフィクション。映画にもなっている。
この事件は全米的にも「前途ある若者がなぜ命を無駄にするのか」で有名になったらしく、「準備と知識不足による愚かな行動」と批判される一方で同様に「世間に背を向ける」若者の憧れにもなり、バスへの巡礼者なども発生していたようだ(現在はバスは撤去されている)。筆者はアウトドア雑誌のライターで、のちにエベレスト遭難事故に遭遇したりで有名だが、自身も放浪したりトレッキングにのめりこんでいた経験から、同情的に描いている。亡くなった青年について、生い立ちとくに家族との確執から、放浪中(すぐに山に潜っていったわけではなく、農場などでの期間労働をしながら転々としていたらしい)の足取りとその間本人が偽名でつけていた手記をたどりつつ、同じように「世を捨てて生きる」人々を取り上げている。実際のところ、話題の青年ほど劇的ではなくても文明や社会と距離をとって生きることを実践しているのは北米では多く、それはヒッピー運動から昔ながらの世捨て人、宗教的な動機まで一定の人々が荒野にむかっているのだ。そのような事例を引き、自身の経験も引きながら、筆者は青年の最期までをたどっていく。アメリカのサブ精神史的なものもあり興味深かった。本件について、捨て鉢な若者のある種の自殺であったという評を筆者は否定していて、本人は悲惨な最後になったが、希望をもち生きるつもりで道半ば倒れたとしているのが印象的だ。そうあってほしい。
スタートボタンを押してください/D.H.ウィルソン&J.J.アダムス編
スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選) (創元SF文庫)
- 作者:ケン・リュウ,桜坂 洋,アンディ・ウィアー,アーネスト・クライン,ヒュー・ハウイー,コリイ・ドクトロウ,チャールズ・ユウ,ダニエル・H・ウィルソン,チャーリー・ジェーン・アンダース,ホリー・ブラック,ショーニン・マグワイア,デヴィッド・バー・カートリー,ミッキー・ニールソン
- 発売日: 2018/03/12
- メディア: 文庫
ゲームをテーマにしたSFアンソロジー。短めが12編。出てくるゲームも状況も多彩で、ゲームの外のことが問題になることもあればゲームの中が問題のこともある。死ぬたびになんども近くにいる人物にリスポーンになってしまうシニカルな「リスポーン」から、突然ネームドキャラクターと同じように自分で行動ができるようになったNPC(それも単純作業をくりかえす作業員モブ)の選択によりそう「NPC」や、さえないティーンエイジャーがオンラインゲーム内で活躍する中でポイント稼ぎ以上のものに気づいていく「アンダのゲーム」などが面白かった。ゲームは目的達成の合理性を追求したり、現実ではできない振る舞いができてしまうが、そこに誠実である倫理的であることを絡めたものに惹かれた。軽く読めて楽しい。
最後の竜殺し/ジャスパー・フォード
楽しい現代スラップスティックファンタジー。魔法が衰退する中、魔法使いが家の配線工事したり配送したりする小さい仕事を請け負う会社のマネージャーな主人公が、最後のドラゴンが間もなく死ぬという予言が国中に触れ回られるところでいきなりドラゴンスレイヤーに抜擢される。この舞台になっているおそらくイギリスがモデルの国家(その名も「不連合王国」)が、資本主義と腐敗と身分差がひどくて笑う。ドラゴンが死ぬとその住処の自然保護区的な土地が手に入るのでみんなで待っていて、中継車とかが出たりするし、主人公は資金集めのために企業の広告背負いながら、ロールスロイスの改造車で竜退治に向かいます。ドラゴンでキャラクター商売したいから、商標権売ってくれ!って、退治する方に聞くな。倒すべきドラゴンはというと虫マニアで、人類がクジラとか象の保護に熱心なのに新種の虫に興味が持てないのは、対象がかわいいかどうかでしか考えられない愚かな哺乳類だからであると正論を述べてくる。とにかくスラップスティックなんだけど、ちゃんと魔法が衰退している理由であったり、たくさんでてくるアクが強いキャラクターでも善さで団結するのは良かった。
ル=グウィンが2004年に始めた新しい世界のシリーズ。奴隷や都市国家の戦争などギリシア古代を思わせる世界での緩やかに連続している3人の語り手による物語。1作1主人公で、過去を振り返って語る形をとっている。それぞれ独立しているが、3編ともを通じてテーマになっているのは、「語ること」で語りかけること物語を共有すること、それが人を動かす力になることを示している。(この言葉の力が権力や暴力への対抗力になるという信念、作者の善き知的なアメリカ人ぽいなぁとも感じられた。)
3編とも静かに進んでいく物語だが、一番興味深かったのは3作目の「パワー」。屋敷付き奴隷として育った主人公の少年は現在の暮らしに満足しているが、少しずつ矛盾にさらされやがて世界がひっくり返って逃げ出すことになる。逃げ出したその先でも、従うことに慣れているためにいくつも間違ったり迷ったりしてしまう。様々に振り回される力/権力/暴力に対して、過去に振れたことがある詩への憧れを力に変化しながら進みようやく自分を見出していく。派手な部分は一切ないが、物語自体が語り手が過去を振り返るという形式をとっているため、過去をいつくしみ癒していく口調がよかった。
ナインフォックスの覚醒/ユーン・ハ・リー
全然何言っているのかわからないまま独自の用語用法の波にされされる系SF。でもあまり問題はないかもしれない。要は数学を使うと魔法のような特殊効果がえられる兵器が使われる軍事国家で、突然抜擢された主人公が過去の戦略家の人格を共有して脳内で対話しながら、作戦を遂行するだけだ。面白いなと思ったのは僕扶とよばれる自律ドローンの群れが独自に会話していたり、敵方の私信が一部だけ挟まれていたりと、さまざまに視点が切り替わって展開していくこと。僕扶はかわいい。
西洋文学における異類婚姻譚/監修:山内淳
「古代から現代までの欧米諸国の異類婚姻をテーマにした文学作品についての論集(解説より)」範囲はギリシア悲劇からクトゥルフまで広い。それぞれの論によってテーマも筆者もことなっているので、連続した何かというよりこういうものもあるというのが読めていい。女神や妖精などの異類や異界の住人、および異類に変えられてしまった人間との婚姻は時代を超えていくつも見られるが、その物語の扱われ方は異なっている。力を得たり土地の権利を主張する背景として尊ばれることもあれば、忌まわしいことになることもある。この違いを引き起こすものは何か?については総論的には語られてはいないけれど、古代におけるアルゴ号の冒険、中世における十字軍、近世における新大陸発見と世界観が拡がり他者との接触が増えるときに「異類と交わる」物語が書き起こされるのではないかとみることも出来る。単純に読み物としても面白いので、よかったです。
2020年上半期に読んだ本など
2020年も前半終わろうとしてんじゃねーか
書籍・小説・漫画・WEB小説
犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎(コニー・ウィリス)
SFミステリードタバタラブコメユーモア小説!
犬も猫もおるしパワハラも執事も婚約もタイムトラブルも歴史談義もあり。大変楽しい。タイムトラベルが可能になり歴史研究が行われるようになった大学の歴史学部だが、スポンサーの無理難題解決のために大混乱に。過労で倒れた学生の主人公が療養として派遣されたのは優雅なヴィクトリア朝時代。なはずなのにトラブル続き。まず、主人公氏が過労すぎて何も話聞いていない。そのうえ、周りも話聞いていない。ドタバタ。でもどんどん収束していってきれいに収まってよかったよかった。
1/5に読了。余談だが、仲間内でのお題にあわせて作品や人物を答えるあそびで、ヒロインのヴェリティを「ギャップがある人物」に挙げていた。
所有せざる人々(アーシュラ・K・ル・グィン)
共産主義的な無政府主義者の惑星と資本主義的な権威主義者の惑星、どちらもそこそこ快適そうでそこそこに耐えられない
2重惑星に住む、祖先を同じくする人々。片方は貧しく、無政府主義を掲げて資産や仕事を共有している。子どもの名前も家も仕事も家族も、独占することができない。そこに生まれた物理学者の主人公は、業績を立てても名声や研究職の地位を得られない。故郷であるのになじめない。そこで、反発にもかかわらず招かれて300年前に分かれたもう一つの惑星の学会に招かれるが、そこは享楽的で権威主義的でやはり好意を持つことはできない。最終的に主人公は自分だけのものであった物理理論を手放すことで、何も独占しないものとして家族のもとへ戻る。
この、どこにも居所がないというのがギュッときた。アナーキズムをユートピアとしてではなくどこか個人の居所を奪うものと描き、個人の中に安寧を見出す(見出さざるえない)ものとするのが興味深かった。1/9ごろに読了。
闇の左手(アーシュラ・K・ル・グィン)
性がない人々が住む世界の観察と記録
ハイニッシュユニバース、というらしい。作者のル・グィンの作品シリーズの中でも、過去に様々な環境の惑星に進出したハイン人の植民地が、その後長い分裂の時代で独自の進化を遂げた結果、社会や生態すら変化させてしまった。その後、再統合の動きの中で使節が派遣される、連盟への加盟を促すなかで様々な人類の形態を目にする、というのがその組み立てになっているが、その一つ。1か月のある時期のみ男女どちらかに変化し、それ以外の時期は両性(というより無性)で生きる人々の住む世界は極寒の惑星。
妥協を知らない人物というとこの氷の世界の住である登場人物のエストラーベンであるが、それに対する連盟からの使節もまた任務へのこだわりが強い。両者の互いの視点が切り替わって語られつつ、異人への理解と協力が描かれる。平等であり異邦人であり孤独である。
世界の誕生日(アーシュラ・K・ル・グィン)
短編集 惑星で移民船で生まれる独自の世界 宇宙文化人類学
ル・グィンリレーラスト。上述のハイニッシュ・ユニバースに基づいて、過去に放棄された人類の植民地で独自の進化を遂げた社会を描く短編がいくつかと、世代交代しながら進む移民宇宙船の中の世界を描く中編。
もし社会がこうであったら?みたいな見本市。特に性差と社会規範についてが多い。男女の立場が入れ替わった極端な女尊男卑社会を描いた短編も強烈ながら、5世代を後退しないとたどり着かない惑星へ向かい続ける話も強烈だった。1月後半に読了。
マーダーボット・ダイアリー(マーサ・ウェルズ)
連続ドラマオタク殺人兵器の自己語り
宇宙に進出した人類。企業体が軍事力や警察力を駆使する世界で、クローン製の人間の脳と機械化され(武装した)体をもち、通信チャットで会話したりハッキングしたりしつつ、コンテンツに耽溺する殺人機械(マーダーボット)による、慇懃な日記。
これは面白かった。1月末読了。保険会社に所属し、顧客の警護が仕事ながら、命令実行のための統制モジュールをハッキングしてしまっているため、実際には自由な状態の構成機械(有機体と機械からなる存在)が主人公。命令を聞かなくてもよい状態のため、顧客を皆殺しにしても立ち去ってしまってもよいが、今熱中しているのは動画コンテンツの閲覧という主人公(一人称が弊機)のキャラも面白いが、他の非人間たちも面白い。圧倒的な計算力持っているのに一緒にドラマ見てくれるし、厳しい展開で動揺してしまうARTはいいやつ。中編4編の上下巻だが、一応まとまっていて読みやすい。テーマ的にも、人間に近い非人間(主人公のようなサイボーグ的な構成機械や船やポートのAI)が人間をどのような存在とみなしているのか、彼らは自由になった時になにをしたいのかという議論は面白かった。対人恐怖症気味で引きこもりムーブをかましながら、「自分が自分であり続けること」にこだわる主人公愛しい。
続編が出たらしいが、翻訳はまだまだ先だろうか。原書を手に入れられるかな。
鋼鉄都市(アイザック・アシモフ)
ロボットバディ、刑事もの、古典
…正直今一つ。そんなに歴史が進んでいるのにいまさらキリスト教ですかぁ?という感じもなくはなかったが、現状アメリカみてるとそうでもないのかな…?2月初頭読了。
量子魔術師(デレク・クンスケン)
遺伝子操作人類亜種、チーム、多国籍感
詐欺師がチームを組んで、騙しをしたうえでさらにもらう代金以上のものを手にする話。ではあるのだが、SFなので騙しのツールはワームホールと宇宙艦隊で、騙す相手は宇宙空間に進出した巨大国家。キャラクターもなかなかねじが飛んでいてよい。
興味深いと思った点は2点ほど。1点目は宇宙に進出した人類だが、環境や経済上・政治上の必要によってさまざまな遺伝子操作を施し、一種の亜種になった人類がチームを組んでいる。遺伝子操作は素晴らしい能力をもたらすとともに、その生き方を規定している。主人公は天体観測や確率計算用に作られた人種で、過集中状態に入ることで飛躍的な計算力を持つが、一方でその遺伝子操作によって仕組まれた性質を嫌悪している。同族の幼馴染への愛情が仕組まれたものに感じて反発する一方で、未知への憧憬を止められない。2点目は、描き方。ラテン系の名前やフランス語の罵り語がでてきて多国籍感があるなと思ったら、作家がカナダ出身でメキシコで勤務していたことがあるとのこと。なるほど。2月前半に読了。
グラン・ヴァカンス 廃園の天使
客を待ち続けるリゾートの住人、絢爛豪華なグロテスク
地中海風の海沿いの街を再現した、仮想現実のリゾートと客をもてなすために用意されたAI達。 永遠に続くと見えた繰り返される1日が崩壊し始める。
永い永い間、人が訪れなくなった仮想現実のリゾートという設定がぐっと来た。季節は夏で雰囲気はノスタルジックに固定され、かつその住人達はそれぞれ背景となるストーリーを設定として持っている。しかし訪問者がない状況では、読まれないままの本のように誰にも触れることがない。この雰囲気もよかったけど、そのあとに始まる崩壊とそれに従って明かされるリゾートのグロテスクな側面には嫌悪しつつ読み進める手が止めにくい。2月前半に読了。
7月の今、続編というか前日譚の「ラギット・ガール」を読んでいる
折りたたみ北京 現代中国アンソロジー(ケン・リュウ編)
伝奇から現代、期待しているものと期待していなかったものと両方
アンソロジーなので、なのかカタログ見本みたいにいろいろ。好みのものもあれば、どこかで見たなみたいな印象のものも。読んでいて気になったのが、自分がなにかオリエンタルなものを見たいと期待しているんだと気づいてしまった。
2月中旬に読んだ。三体が話題になっていたころか?
ナイトフライヤー(ジョージ・R・R・マーティン)
だから初対面メンバーが乗り合わせる探査チーム船には載っちゃダメって言っているだろうが
中編+短編いくつか。いかにもなSFものからちょっと変わったものまで。表題作より面白いかなと思ったのは、ゾンビというか死体を操る技術者の話。運用大変そうだな。ところで「winds of winter」はまだですか?(キレ)
3月頭に読了。このころはまだそこまでウイルス対策も話題というぐらいで、フェアコーナーで「ペスト」と「デカメロン」が並んでいるのを横目に見た記憶。
反逆航路シリーズ(アン・レッキー)
同期された4000人のわたし、性がない言語、タイトル詐欺
数千人の兵士を操作する戦艦のAIだった私は、艦と乗員を失ってたった一人として取り残され、復讐の旅に出ている。その途中で過去の乗員を発見して…。
結構好きなシリーズなんだが、邦題と表紙が誤解を生むよなという気持ち。署名で検索すると「つまらない」がサジェストされるのかなし。独特な文化世界を魅せてくれている。手袋とお茶の尊重、何千人も同時に存在するたった一人の最高権力者、なによりも主人公および主要舞台の言語には「性」がないので、翻訳上男でも女でも「彼女」になるしだれかの子どもはすべて「娘」といった風に女性形に統一されているのが小説として面白い。派手な戦争がないのが不満みたいにみられている?みたいだけど、自我の分裂したシーンとか、なぜか離れがたいみたいなのグッと来たんですけどね。
続いて同じ宇宙ではあるが部隊が異なる「動乱星系」も読んだが、反逆航路としての続きは出ないのかな。
3月前半に読み終わった。2月に1巻目だけ購入して、その後学校の一斉休校などがはじまり、書店も閉まるかもと思いながら続きを買いに行った記憶。(購入履歴を見ると3/10。この時に「荒潮」も購入している)
荒潮(陳楸帆)
目玉、ゴミの山と海流、ボーイミーツガール??
「荒潮」で検索すると、駆逐艦が出てくるがまさかの関連していた。
読みたいものを読ませてもらったという感じ。資源ゴミが集まる島、帰郷した現代人と因習を感じさせる一族、電子の世界を操る存在。ただ、既視感があるというか、結局一番印象に残ったのが目玉の話と潮占いだった。生身の身体に手を加えるのをためらう一方で、古くからの風習には嫌悪感を抱く。等価ではないが、小さいこだわりと偏見でできていて、その中でちょっとでもまともでいようとするしかない、みたいな?(曖昧)
3月中旬読了。
我らはレギオンシリーズ(デニス・E・テイラー)
ボブが、ふえる・・・!テラフォーミング、自己複製機械、惑星探査、ファーストコンタクト、そして宇宙戦争…全部乗せ!
プログラマーでSFオタクの主人公(ボブ)が事故死し、数百年後に電子化された人格として復活したが、いきなり探査船に積み込まれて宇宙へ旅立つことに。広大な宇宙を一人では探査できないので、AI人格と探査船のコピーを作りながら宇宙へ広がるボブ…。
人格をコピーするたびに、微妙に性格に差ができていき、次第に人類とも離れた独自の秩序を築くのが興味深い。時間の単位も人間とは違うしな。それでいてオリジナルがオタクだからか、様々なネタをそれぞれの名前とテーマにしているので楽しい。ボビヴァースってなんだよ。探査船として出発したが、直後に世界戦争になって太陽系は滅亡寸前になってしまって、保護者としてふるまったり敵対的な宇宙生命と戦争したりとなんでもあり。いつまでもまとまった一群として行動する必要はないにたどり着いた最後はよかった。推しボブはビルです。
4月前半に読み終わった。1巻だけ3月末に購入、書店も閉まるかもという4月第1週に2・3巻を慌てて購入した。リモートワークが始まるかも?みたいなころ。
リウーを待ちながら(朱戸アオ)
WEBで一部無料公開を見て、そのまま購入。履歴を見ると3/29。
パンデミックやばいというのがよくわかる内容だった。ただ、いろいろ手配する味方がかなり有能で、実際の経過とみると「そううまくいかないんだな」というのも見えてしまった。
人間たちの話(柞刈湯葉)
気軽に読める短編集。こういうのがいいのだこういうのが。
前向きな氷河期、エンタメ化した監視社会、生命探査と家族、そしてラーメン。肩痛くならない感じ。ラーメン食べたい。
いよいよ緊急事態宣言(仮)によって、リモートワーク化。1日引きこもりに堪えかねて、夕方に近所の公園に行ってベンチで読んでいた。日が落ちると陸上に上がってきた鴨に威嚇された。なんでや。
この後、4月は下記の記事に従って小説家になろうを読み漁っていた記憶
https://note.com/kimehito/n/n3e04198ddfd4
長編で時間が溶けた。ホノルル幕府面白かったです(小声)
天冥の標シリーズ(小川一水)
トッピング全部のせ。電子書籍合本版7263ページ全10巻、17冊。死ぬかと思った。
読み終わった時の感想が残っていたので自己流用
伝染病と知的なウイルスと進化と宇宙戦争と直球のエロが、21世紀から29世紀まで濃ゆいキャラクター群と一緒に駆け抜けてったわ。
第1巻で惑星移住植民地革命闘争がいきなりどんでん返しで終わったら、2巻はいきなり恐怖の伝染病と差別、その後は男の娘が宇宙海賊を倒すスペースオペラやったり目くるめくエロシーン、そしてすべての背後で手を回して文明でを守ってくれる知的存在体(ただし羊に宿る)。広げすぎて意味が分からんと思いきや、テーマは「他者との共存」で貫かれている。なるほど。しかし異星人の前で公開性交は何とかならんかったのか…?そんな外交あります?
各話100年とか300年後とか時が飛ぶのに、前巻登場人物の末裔らしき人物や組織が何度も登場するところも魅力です!面白かった!
疲れた…もうだめだ…脳死ぬ。だがこのテンションを残したかった。
植民地惑星で革命闘争している→実はその裏で異種族レベルまで身体作りかえた元人類と戦っている→そもそも別の種族同士が戦争直前→全銀河一致して立ちむかわないとやばい敵がいる
というのを把握しているのは羊に宿った文明寄生型知的生命体(めぇめぇ
自分で読んでも意味が分からないけど読んでいて楽しかったです。人に勧めたいのだが巻数が多くて勧められないし、おすすめポイントはというと早口になってしまう。300円払うから聴いてほしい。
5/14に購入して5/18に読み終わっている。が、そのあと2週した。
混沌ホテル(コニー・ウィリス)
ユーモアと皮肉に満ちた短編集。楽しい。
やや時代を感じるものの、明るく楽しいドタバタ短編集。クリスマスソングにのみ反応する宇宙人、インチキチャネラーに憑依した伝説的懐疑論者の人格、そして盛大な「宇宙戦争」ギャグ。リモートワーク中、夕方から夜にベランダで読むのにはまっていたころにピッタリだった。
6月前半読了。非常事態宣言さんがログアウトしました。
ツインスター・サイクロン・ランナウェイ(小川一水)
電子で購入。普通と普通でないと。
資源として、鉱物でできた「魚」を取って輸出する植民惑星で、氏族で別れてそれぞれが漁をしつつ通婚することでバランスを保つ社会。漁にでるにも男女の夫婦でおこなわないと認められないところを、はみ出し者な主人公たちは女同士で組んで挑む。
普通はこうと定める理由もわかるけれど、それ以外を認めさせるのには大変な苦労。普通につぶされそうではあるが、救いもありというさわやか読後。
上半期はいろいろとおかしな状況だったし(どこも息苦しく、まさしく I can't Breath)だったのか、余計に架空の世界なSFに耽溺していた。7月からは何を読むべきか。
読んだ本&映画など2019 後半
2019年も終わりにつき
■小説
戦場のコックたち 深緑野分 【第二次世界大戦中/ヨーロッパ】
第二次世界大戦中のヨーロッパ戦線におけるアメリカ軍空挺部隊の「コック」になった主人公とその仲間による、戦場で発生した「日常」の謎解き。
キャラクターがなかなか魅力的。料理好きで兵士内では馬鹿にされるコックに誇りを持っている主人公、謎解きの中心人物で頭脳明晰だが味音痴の探偵を中心に、意地悪なやつ、親切なやつ、よくわからないやつが現れ、初対面から少しずつ人物の背景を知っていくのも面白い。謎解きは、「保管していた粉末卵の山が一晩で行方不明になった」「ある兵士が使い終わったパラシュートを集めているのはなんのため?」など、戦場の攻防にかかわらない内容が多い。では何のためにやっているかといえば、「気晴らし」のため。後方支援担当のコックといえど、通常時は歩哨などにたっているし、前線として突撃はしないがやはり戦場のストレスがあり、そこから目をそらすためでもある。が、謎解きによって人を傷つけてしまったり、罰せられてしまうことを目にしていくことにもなる。ノルマンディー降下作戦から、オランダの市街戦(マーケットガーデン作戦?)、ドイツ国内へと進んでいくが、後半にかけて、調理・謎解き・戦場の3要素で進んでいたストーリーは、戦場およびその悲惨さが覆いつくしていく。後半は苦みが多くやや冗長な気がしないでもないが、ラストは良い。
オーブランの少女 深緑野分 【短編集】
<少女>がテーマの短編集、なのかな?舞台も様々。20世紀のヨーロッパの庭園、20世紀初頭のイギリスの雑多な都会、ヨーロッパのどこかの街の定食屋、戦前の日本の女学校、架空の中世の雪に閉ざされた北の国。美しい庭園の管理者姉妹の姉が突然現れた狂人のような人物に刺殺されてしまい、妹も直後に自殺。しかし、狂人はどうやら姉妹に庭で飼われていたようでと始まる表題作を含めて、謎があるが解き明かすことで味わうのは苦みというのが特徴。謎解きは調味料。
氷と炎の歌シリーズ ジョージ.R.R.マーティン 【異世界中世ファンタジー】
続刊はよ!
2019年に完結したHBOのドラマ「ゲームオブスローンズ」の原作のファンタジー戦記。京極夏彦なみの文庫本サイズで12冊、しかも後半ほど厚くなってんじゃねーか、ふざけんな、好き!なんと、8年もかけてドラマが完結しているのに原作が完結していない。それどころかちょいちょいエロとかギャグとか皮剥ぎとかで時間稼ぎしていたのにも関わらず、当初の執筆・出版予定からの大幅な遅れのため、ドラマ製作途中で原作に追いついてしまった。そんなのってアリ?原作者、ドラマ最終章に不満を述べるくらいなら続きかけやコラ…。しかも小説版だと主要人物だけで3倍ぐらいになっていないか、終わるのかこれ…。
とはいえ非常に魅力的な作品。ファンタジー小説となっているのだが、魔法の要素は限られており、ほぼガチ中世。もともと歴史小説を書きたいが展開がわかってしまうので、薔薇戦争を舞台を全く別にして描いたらどうなるかとのこと。また、地域ごとの習俗・宗教の差もしっかり描かれていてよい。ただ、何より魅力的なのは章ごとに視点人物を切り替えながら動く構成。数人の視点となる人物の主観で、玉座をめぐる陰謀や戦いの様子が描かれるが、ある章で見えたものと別の章では見えているものが異なるし、ある章の視点人物に後に何が起きていたのか伝聞で語られたりする。作中人物同士では初対面でも、読み手はこいつが何やってきたのかしっているし、何を考えているのかどこが嘘かわかる。そんな中で展開される、お家騒動から発した家ごとの抗争および家族内での愛憎がツボでした。家ごとにカラーが異なっているのがいいな。特に、第5部「竜との舞踏」は、ダンスというワードが「陰謀の」「権力誇示の」「戦いの」「滑稽試合の」「結婚式の」と視点人物で異なる形で現れるあたりすごいすき。歴史もの×群像劇×1人称視点複数で好みを次々ついてくる。
とはいえ、2011年を最後にシリーズ続刊が出ていない。はよ!
カラマーゾフの兄弟 (ドストエフスキー) 【18世紀ロシア】
カラマーゾフである。古典である。よくわからないおしゃべりが延々と続き、この父親ほんとむっかつくわぁ、と思っていたらお前もおしゃべりやな長兄、次兄、ってみんなしゃべる、からの怒涛の展開。
西洋政治思想史講義―精神史的考察(小野紀明)
まだ理解しきれていないので再読
■漫画
消費税増税後、電子書籍のクーポンキャンペーンが増え、つい購入が増える。
BEASTARS (板垣巴留/週刊少年チャンピオン/連載中)
今年読み始めた中でベストシリーズ。動物が擬人化して社会生活を営んでいる中で、本能から生じる矛盾をどうにか配慮や尊重や欺瞞で抑え込んでいる社会の生きづらさを描く。主人公の狼がメインではあるけれど、群像劇的に描かれるそれぞれの生きにくさと、種族の特性に基づいた描写が丁寧。アクションがめだつけど、アクションだけじゃなくて背景部分がいいんですよ。なお、重要なことが1つ、これは電子書籍ではなく紙媒体で買った方がいい。見開きページの魅力を楽しめない。
メイドインアビス (つくし あきひと/WEBコミックガンマ/連載中)
絵がかわいいのにえぐっ!キャラクター造形がかわいいによっているのに、展開とかやることがえげつない。地下に潜っていくという情景はファンタジーぽくて魅力的。食事はもうちょっと何とかしたい、というかそんな装備で大丈夫か心配になる。たすけておとなのひとーって、おとなやばい。
■映画/映像作品
・女王陛下のお気に入り(2018年アメリカ)
観たのは前半。没落貴族女子が成り上がりのために、無気力女王様と傍若無人幼馴染との同性愛に割り込んで、クズしかいない宮廷で寵愛ゲットをめざす(雑)。時代劇といえば時代劇なのだが、とにかく衣装がカッコいい。見終わった後に微妙な空気になる。レディ・サラは良い女でした。
・VICE(2018年アメリカ)
観たのは前半。 ジョージブッシュ政権時のチェイニー副大統領の伝記映画。黒い笑いというか、笑えない感じ。家庭ではよい夫で父なのに、権力奪取と振るうときには真っ黒。
・JOKER(2019年アメリカ)
結局2回見に行った。感想というか注目ポイントがレビュアーによって違っていて、どうにかしてみる側に引っかかるように鉤を備えている。アメコミ映画期待していった方は残念でしたかも。圧巻だったのは地下鉄から逃げた後のダンスシーン。あのシーンと階段下りはまた見たい。
・プロメア(2019年日本)
プロメアだっけ、プロメテアだっけとなるが、プロメアです。熱かったし見ていて楽しいけど、なんか設定が引っ掛かった。まあ、ほぼ歌舞伎だったので体感せよ感。
・ワンスアポンアタイムインハリウッド(2019年アメリカ)
ハリウッド版この世界の片隅に(大嘘)1969年におきた「シャロン・テート殺害事件」を下敷きに、架空の落ち目の西部劇俳優とその付き人兼スタントマンを通じて当時の映画界を描いている、らしいが当時の映画に残念ながら詳しくないのでそこの魅力はわかりかねる。が、1日1日とXデーに近づいていく中での緊張と、意外な結末にハッピーになった。俳優もカッコいいし子役の子(ジュリア・バターズ)いい。
Game Of Thrones (2011~2019アメリカ)
ゲースロである。ヴァラーモルグリスである。これまで全然見ていなかったのにはまってからの一気見した。いろいろ最高だと思っているのに、知名度が低くて知っている人にリアル接触できない。良さの詳細は別途記事にしたいし、上記原作の部分と重複するがかいつまむと、
- 大規模な群像劇による王座をめぐる動乱劇。いろんな視点に枝分かれしつつ徐々にストーリーが収束していく。
- 背景の文化・習俗がきっちり描かれている。地域によって考え方が違うし、宗教も異なる。またその地域を支配する貴族の家も特徴がある。
- キャラクターの魅力。登場人物が多いが、血縁関係や主従関係があり、動乱が激しくなってくると家族の仇が当然出てくるし、当初から人物像も変化していく。
今年の後半は完全に引きずられた。あわてて原作に手を出したら完結いないと知って泣いた。
雑感
2019年後半から、私的な研究会に属したこともあり読み直しが多くなり、漫画やアニメの視聴・履修が増え、偏りが出てきた。
来年は気を取り直してバランスを保っていきたい。
読んだ本 2019年上半期
6月も終わりにつき。
私たちが孤児だったころ(カズオ・イシグロ)
- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,入江真佐子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/03/01
- メディア: 文庫
- 購入: 7人 クリック: 73回
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フィクション/20世紀上海
“探偵”な主人公による冒険活劇、にしては苦すぎる。
主人公は常に子供っぽい記憶と行動に逃げ込んでいて、早いうちに読み手にそれがわかってしまう。そして最終的には“探偵”なためにすべてが明らかにされてしまう。
大人の嘘を信じ続けた子どもの話であり、知ってしまったら孤児ではなくなるのか。
フィクション/前中世イギリス
アーサー王亡き後のイギリスで、ブリトン人とサクソン人がそれぞれ村をつくり暮らす中、ぼんやりとした不安がつつむ中を、心身ともになかなかおぼつかない老夫婦の旅路という、直前に読んだ「探偵」より不安になるが、当たり前のように悪鬼やら竜やらがあらわれてもしっかりしていた。登場人物がみんな魅力的なイシグロ作品もあるとは!(失礼)
どこ転がっていくの林檎ちゃん(レオ・ペルッツ)
フィクション/戦間期ヨーロッパ
アップルヘェン(リンゴちゃん)っていうのがかわいい。 そして本当によく転がっていくのは主人公。むしろおまえ転がりたいのではと。
義侠心というよりは自分自身の誇りをエンジンとして、ロシアトルコパリウィーンと駆け巡る(というより転がっていく)けれど、その間に状況が激変していくのに度胆を抜かれる。ユダヤ系オーストリア人ということもあって、WW2を経て忘れられた作家になってしまったというが、おそらくこの話にあるような「汎ヨーロッパ」的なイメージがWW2後には成立できなかったんじゃないかなとも。
彼女がエスパーだったころ(宮内悠介)
フィクション/現代
偽科学(といわれてしまう、とすると配慮が効いているのだろうか)、嘘くさいものをテーマにした連作短編。
まずはじめが、ニホンザルの話である。ルポルタージュ風に始まり、火を使うサルが現れ、問題なのは人家の台所に入り込んで火をつけるため、失火になる。しかもそれが各地にひろがっているという。調べてみると始めたのは他と接触がないはずの離島のサルで…といった具合に、ルポライターの書き手が「101匹目のサル」「スプーン曲げ」「ロボトミー」「水に声をかけて浄化」「レメディ」「ティッピングポイント」あたりの事象が押し寄せてくる。文章に引き込まれるけれど、疲れる感じではある。
フィクション/現代日本
学生時代を京都近辺で送った人にとって、森見モノは心身に悪い。
何かのきっかけで「狸」を目にした後、いつの間にか手に取ってしまい、続きを買い、続刊を望んで鴨川に身を沈めることになる。
四季で一巡する構成とか、納涼船だったり、料亭での大乱闘だったり、ふわふわの毛並だったりのイメージが魅力的なんだけど、何よりも食われるかもという恐怖もあるのがいいとおもいました。(阿呆な感想)
聖なる怠け者の冒険(森見登美彦)
フィクション/現代日本
祇園祭の1日で起こった出来事なので、これは古典演出ですわ。
主人公が積極的に睡眠・怠惰へ逃避するのがいいですね、ぼくも畳で寝たいしパラソルの下でも寝たいし座布団にはさまれて寝たい。
言鯨16号(九岡望)
フィクション/別世界
書評紹介を見て購入。良い。
砂漠(とごく少数の生物)しかいない世界で、砂の上を移動する船を駆って街々移動し、砂上に残された巨大な骨を鉱山としてエネルギーとする文明があって…と、よくできた世界観だけで2杯ぐらい空けられる。キャラクターの魅力でもう1杯。
ヨハネスブルグの天使たち (宮内悠介)
フィクション/近未来
歌って踊れる少女人形が落ちてきたり、殺人兵器になってる短編集です!っていうとろくでもなさそうだけど、だいたいそんな感じ。めぐる各地の紛争風景。
虐殺機関とかハーモニーをなんとなく類推してしまうけれども、もうちょっと実感がある。読み終わった後に高島平の団地の近くを通って気になってしまうほど、登場人物が近い感じがあった。
戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」斉藤 光政 (著)
ノンフィクション/20世紀日本(青森)
民家の屋根裏から見つかった古文書には、正史から抹消された古代に津軽で栄華を極めた幻の政権の記録が!次々に発見される文書とそれを裏付けるような遺跡の発見に、町おこしやら博物館やらは騒然!でも、少しづつ怪しくなっていって…という経過を、批判的な報道を開始した地方新聞記者がつづる。
書き方がちょっと勇み足な感じで鼻につくけれど、東北民なので興味深く読んだ。うむ。たしかにこういう伝説は好まれるし、うっかり地域ガイド的なもので触れられててもへえぇぐらい、ただ実際として描かれる全体像はあり得ないもので、発見の経緯やら検証やら含めて「怪しい」。専門家にとってしてはとるに足らないもの、一般からすると「ちょっと面白い」の間で咲いた徒花といった感じではあるけれど、実際に被害(偽物を本尊として渡された自治体とあ)があり、さらには政治家もでてきて笑えない。
時の娘 ジョセフィン・テイ
フィクション/20世紀イギリス
シェイクスピア劇でも有名なリチャード3世は本当に悪人か?を怪我で入院中のロンドン警視庁の警部が文献から探る。
歴史探偵もの、久しぶりに読んだけど好物でした。同時代人による伝記、手紙、文書といった文献をたどって検証するが、歴史探偵もののありがちな罠として、作者に騙されている可能性もあるのでそこも注意せねばとおもいつつ検証はできないぼんくら。
これを読んで、薔薇王の葬列買いました!(なんでや)
こちらは、シェイクスピアをもとにしつつ、踏まえてアレンジしているので良いと思います(小学生並みの感想)
子どもたちは森に消えた
ノンフィクション/20世紀 ソビエト連邦
10代の子供(および若い女性)をねらった連続殺人、その数およそ50人。連続事件と発覚されはじめたのが1982年だが犯人が逮捕される1990年まで犠牲者が増え続けた。その捜査担当官の苦闘をノンフィクション。筆者はソビエト駐在のアメリカ人記者。
とにかく無造作に犠牲者が出るが、どうしても進まない捜査が印象的。そもそもソビエト連邦では享楽殺人が資本主義社会特有のものとして認識されておらず、捜査機関の質も悪い(エンジニアからいきなり配置転換されたりする)。さらには効率も悪いし、上司からは圧力というレッドならぬブラックぶり。なくなってしまった国の過去のお話といえど胃が痛い。
ヒト夜の永い夢
フィクション/昭和日本
書評で購入。 改元記念にちょうどよかった。
大正から昭和へ時代が移った時、学会を追われた学者やら怪しい人士によって運営される秘密団体昭和考幽学会が、改元記念のために作った思考する自動人形は見た目にも魅力的で語る言葉も麗しく過去未来を予言し…。
つぎつぎ登場する大正~昭和初期の有名人が、どいつもこいつも自分のことしか考えてねぇ!といった感じで楽しい。伝奇ですな伝奇。
下半期はちょっとノンフィクションを増やしたい。
読んだ本2018
順不同
帳簿の世界史(ジェイコブ ソール)
ノンフィクション、2015年
帳簿を使ってきた人の歴史。世界史といいつつヨーロッパ史じゃねえかというのはしょうがないね。
帳簿のイメージがキリスト教に由来し(死後の清算)、かつ尊敬あつい専門職から人をだます賤職にかわっていく視覚イメージは興味深い。
メディチ家の帳簿管理による支配とその破綻による没落など世界史内政好きには良いのではないか。
ただ、近現代が手薄で竜頭蛇尾感もある。
- 作者: ジェイコブ・ソール,村井章子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/04/10
- メディア: 文庫
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千の顔を持つ英雄(ジョーゼフ キャンベル)
上巻の翻訳が読みにくい。
圧倒的な世界中のあらゆる神話と儀式の情報に幻惑される。
アボリジニのイニシエーションの詳細な描写の後にキリストの犠牲みたいに、普遍的な価値を立証するということなのだろうけど、事例列挙についていけず混乱した。
千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: ジョーゼフ・キャンベル,倉田真木,斎藤静代,関根光宏
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/12/18
- メディア: 文庫
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千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: ジョーゼフ・キャンベル,倉田真木,斎藤静代,関根光宏
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/12/18
- メディア: ペーパーバック
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方壺園(陳舜臣)
書店のポップで購入。歴史が舞台なミステリ。
中国舞台とおもったら、ムガル帝国あり、時代も唐から第二次世界大戦あり。
- 作者: 陳舜臣,日下三蔵
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2018/11/09
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風の十二方位(ルグウィン)
ファンタジーだと思ったらSFだった。SFだとおもったらホラーだった。
幅の広さを感じました。ゲド戦記が好きだったのでそのイメージが強い。
惑星調査隊(2人)とそれを手伝う12人クローンのグループの話、天文学者の話が好き。
- 作者: アーシュラ・K・ル・グィン,丹地陽子,小尾芙佐,浅倉久志,佐藤高子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1980/07/25
- メディア: 文庫
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紫苑物語(石川淳)
国立劇場の新作オペラから気になって。
流麗な文体といえど、知能完成が足りず。
表題作以外のより伝奇が好き。
- 作者: 石川淳,立石伯
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1989/05/05
- メディア: 文庫
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崑崙の玉(井上靖)
再読。失望し挫折する人間の話、が作者の好みであり自分にも合っている。
- 作者: 井上靖
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/05/12
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アメリカ最後の実験(宮内悠介)
エクソダス症候群、盤上の夜を読んで、もういいやと思いつつ呼んでる。
これはファンかも。
- 作者: 宮内悠介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2018/07/28
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日の名残り(カズオ イシググロ)
親は前年にノーベル賞をとった作家の本を買うという素晴らしい習慣を持ち、家族がスウェーデン人の見解に感謝する風習がある。(要出典)
一人称視点の良さがある、読むべき本。
- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,土屋政雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/05/01
- メディア: 文庫
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わたしを離さないで(カズオ イシグロ)
国営放送NHKにネタバレされたけど読んだ。
個人的にはわかるとわからないの間にある。映像化向きというのはあるけど、映画化されていると知っていたからなのか…わからない。すれ違いの話。
- 作者: カズオ・イシグロ,土屋政雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/08/22
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あなたまかせの話(レーモン クノー)
同作者のオディールを大学の課題で読んで以来。
表題作はゲームブック的。それより作者の故郷でもあり、第二次世界大戦で壊滅的な被害をうけたことで知られるノルマンディー地方ルアーブルへの訪問記が印象的。
- 作者: レーモンクノー,Raymond Queneau,塩塚秀一郎
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2008/10/01
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パリの廃墟(ジャック レダ)
パリに旅行する前に勧められたが、帰国後に読了。
描写される情景は失われた感がある。
15時17分パリ行き(アントニーサドラー、アレクスカラトス、スペンサーストーン、ジェフリー スターン)
タリス銃乱射事件で犯人を取り押さえたアメリカ人旅行者の事件に遭遇するまでの経緯とその後(賞賛・失望)について。
中二病の典型妄想、「テロリストに立ち向かうクラスの隅の俺(ら)」を実現して、ヒーローになった話。
遭遇した主人公グループ3人の生い立ちとともに、犯人の生い立ちも詳細に語られているが、どちらにもわりと絶望感と閉塞感が漂っている。
事件遭遇時になにがあったのかは微妙に証言が食い違っていて、藪の中感。
また、事件後に大いに称賛されたものの、さらに大規模なテロが続くことで勝手に失望されたりと理不尽な毀誉褒貶が発生。
ヒーローって難しいよね。
- 作者: アンソニーサドラー,アレクスカラトス,スペンサーストーン,ジェフリー E スターン,田口俊樹,不二淑子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/02/09
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夜毎に石の橋の下で(レオ ペルッツ)
神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ二世の統治時代のプラハが舞台の連作小説集。
主役は入れ替わり、再登場し、時代も前後左右しながら、冗談みたいな皮肉な感じで話がすすむ。面白い。
主人公格はプラハの街そのもの。作者の出身地でもある。
- 作者: レオ・ペルッツ,垂野創一郎
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2012/07/25
- メディア: 単行本
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アンチクリストの誕生(レオ ペルッツ)
「夜毎に石の橋の下で」が気に入ったので同作者の本を探してみたが文庫本2冊しかおいておらず、とりあえず購入。
2点3点する展開とウィーン風味。こいつらいつも浮気してんな。
- 作者: レオペルッツ,垂野創一郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2017/10/06
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無限大の日々(八木 ナガハル)
- 作者: 八木ナガハル
- 出版社/メーカー: 駒草出版
- 発売日: 2018/02/28
- メディア: 単行本
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銀河の死なない子供たちへ 上 (施川 ユウキ)
- 作者: 施川ユウキ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2017/09/27
- メディア: Kindle版
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読書録(2017年上期、覚えている分)
読書録など
フランクル「夜と霧(新訳版)」
想像でしかないけれど、筆者は魅力的な人物だったのだろうと思う。
ユーモアと知性、倫理観と冷静さ。
家族への想い、望郷の念、自然と宗教的祈り、研究への執着。
ただし、20世紀的な理想主義的倫理観といわれればたしかに。
ワイリ、ゲニス「亡命ロシア料理」
アメリカに亡命(移住)した、ユダヤ系ロシア人2人組みによる、料理をネタにした全方位への批評。
アメリカで故郷の料理を作るためのレシピもあるけど、おおざっぱで参考にならねぇ。
各章のタイトルだけで笑えるのでコスパがよい?
「イギリスは紅茶で帝国を築き、ティーパックの発明で帝国は崩壊した」
「出版社はこれ以上の筆者の住所を伏せている。おそらく怒り狂った諸国民の復讐を恐れてのことだろう。」
全般的に皮肉な笑い。ただ、この筆者はリガ出身なのでそれはラトビア人なのではという・・・そして現在のラトビアでは反ロシア感情からロシア系住民に諸市民権が認められていないというつらさ。
カルヴィーノ「見えない都市」
マルコ・ポーロとフビライの対話を枠にした、モンゴル帝国に点在する都市についての短編集。
語られる都市の話も幻想だが明らかに違う時代が混じり、ときどき語り手枠も幻想かもという示唆がある。
沈黙の都市ヴェネツィアの言及が印象に残る。
レジスタンス経験をもとにした短編が面白い。
カルヴィーノ「宿命の交わる城」
タロットカードの並びで物語を生成できるかという試み。
途中でちょっと読むのがつらくなる。
ダンセイニ「世界の果ての物語」
高校に読んで以来の再読。ほら話とファンタジーの隙間というか。
劇場
ジークフリート死すべし、慈悲はない。
大道具・衣装はフィンランド国立歌劇場。三角形と円、遠近法と幕の強調が多く、現代美術チック。
ワーグナーは耳に残る。
展覧会
絹谷幸二は強烈だった。
イベント
初めて参加。一度行くだけでファンになる、本当に面白いのでみんな行くべし。
我々は皆、どこかの星のかけらからできているという講演が非常に印象に残る。